補陀落幻影
| 補陀落幻影 | |
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~穴を穿つ者とふさぐ者~
祐作と阿山の静かで深い友情。祐作が戦争で負った深い傷。笙を作った老人との不思議な縁。瑤子とのあたたかいいたわり合い……。たくさんの宝石のようなエピソードで心が満たされ、洗われましたが、中でも一番印象深かったのは、『穴』です。
障子に小さな穴を穿つことで、外の新しい世界を知って感動する幼い祐作。続いて連想される補陀落。この二つが象徴となって、物語が紡がれていく。
視力を失った阿山のために、祐作は紙に穴(点字)を穿ち、阿山はその穴を指でなぞる(ふさぐ)。「君の点字本によって、これまで自分の目の前に立ち塞がっていた壁に、小さな穴があいたやうな気がしてゐます。その穴は、僕をあらためて此世に繋げてくれました」
また、吹いても吸っても音が出る笙は、まさに命の楽器。『笙』の字が『竹かんむりに生』である意味を、改めて考えさせられました。ここでも祐作は笙を譲ることで、阿山の眼前の『壁』に穴を穿ち、阿山は笙の管の穴をふさぎ演奏します。
さらに、戦争で開いた祐作の心の深い穴を、阿山が最後に点訳を依頼した本の一説がふさぎ、祐作の長い自責の日々に穏やかな光がさします。
そして、祐作が自らを葬り去るためにドリルで開けるつもりだった船底の穴を、阿山の絶筆となった手紙が永遠にふさいだのでした。
自分は笙の也の管。祐作は闇を照らす一筋の光明で、此世に存在してくれることに対して、何ものかに手を合わせたいと記した阿山。一方、戦争で犯してしまった祐作の罪をつぐなうために阿山は光を失い、補陀落へ向かう孤独な渡海者となったのではないかと考える祐作。穴を穿つ者とふさぐ者。生かし、生かされた二人の友情は、滅することなく未来永劫続いていくのだと思います。
瑞々しい色彩に溢れた静謐で凛とした物語に、心より感銘しました。
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